今朝の朝食はトーストにスクランブルエッグ。
あっ、いけない醤油切れてたっけ・・・。
まぁ、いいわよね。 使うの義政だけだから。
男でしょ? それくらい我慢できるわよね、っていうかしろ?
あひるのマーチ 〜家鴨行進曲〜
<ある朝が日常>
「左京ちゃん、和馬以外全員起こしてきたよ」
「臣君ご苦労様〜。 さっ、どうぞ召し上がれ」
二階から下りてきた臣に朝ご飯を差し出したのはこの家の母親ではない。
彼女は、千堂左京。
一応長兄・義政の彼女で、一応次兄・誠哉の同級生で、一応その他三名の保護者代理。
ついでに言うと、義政とは半同棲状態で気が向くとこの羽山家に泊まっていく。
そして、朝ご飯も作ってくれる。
普段朝食係として働いている英臣からしてみれば、彼女は救世主にも近い存在である。
「あぁ、本当に左京ちゃんがいてくれてよかった〜。 じゃないと俺今日という今日はキレるところだったよ」
「んな、大げさな」
「さきょうねぇ、おはよー!」
英臣との談話もそこそこに、仕度を終えてすっかりご機嫌なうてながちょこちょこと走ってきた。
左京は彼女を抱きとめるとぎゅっと抱き締める。
「おはよう、うてな! 今日も可愛いわね〜」
「さきょうねぇ、かみのけやって〜」
「はいはい、お姫様の仰せのままに」
「今日も朝から賑やかだな・・・」
「あら、誠哉もおはよう。 朝ご飯これだからちゃっちゃと食べちゃってね」
「あぁ」
うてなに続き誠哉も食卓へ姿を現した。うてなの髪を纏め上げる傍ら、左京は機用にも誠哉に朝食を渡す。
それを受け取った誠哉は自分の席に腰掛け、黙々と食べ始めた。
暫くすると、人数があからさまに足りていないことに気がついたのか、誠哉が隣の英臣にポツリと呟いた。
「臣、馬鹿はどうした」
「・・・どっちの?」
「下のほうの」
「そっちはまだ寝てる」
「そうか・・・」
「誠哉君、上の方の馬鹿とは誰のことだい?」
その声に誠哉と英臣が後ろを振り向くと、そこにはいつのまにかスーツ姿の長兄・義政が立っていた。
心なしか、こめかみあたりに青筋が立っている。
しかし、義政の突然の質問に驚くそぶりも見せず、左京はあっからかんとした表情で答えた。
「あら義政、あなたに決まってるじゃないの。 ねぇ?」
その答えに誠哉と英臣は頷く。
そんな弟たちを見て、上の方の馬鹿と呼ばれた長兄・義政は思わず顔をしかめた。
「臣と誠哉に言われるのはまだ平気だけど、左京・・・君に言われるのはちょっと傷つくよ?」
「あら、傷つくだけの感性があったのね? びっくり」
「・・・・・・・・酷い・・・・・・・・」
「いいからさっさと食べてよ。 うてなも髪の毛終わったから食べていいよ」
「わぁい!」
幼稚園児は時に残酷である。
彼女に毎度のことだが冷たく当たられ、呆然と立ち尽くしている義政めがけて・・・。
「まさにぃ、どいて! そこうてなの席!」
そういって、小さいなりに精一杯の力で義政に体当たりした。
「ぐっ・・・」
何処に当たったかは定かではないが、義政は低い悶絶の声と共に床に臥した。
その間も兄弟+恋人たちは見てみぬフリである。
これもまた日常茶飯事。
とそのとき、バタバタという階段を駆け下りる音と共に漸く三男の・和馬が下りてきた。
「おっはよう! って、俺誰踏んだの?」
「「「義政」」」
「ならいいや」
義政がうずくまっていたのは階段の下。
和馬が駆け下りてきたのは階段。
和馬の台詞からも何が起きたかは一目瞭然であるので敢えて説明はしない。
もちろん、誰一人として心配していないということも敢えて説明はしない。
「サキョウちゃん、俺の朝ご飯とっておいてね?」
「気が向いたらね。 それよりほら臣君、そろそろ急がないと遅刻よ」
「うっわ、やばい!」
8時を廻ったところで、羽山家の食卓は慌しさを増してきた。
学生鞄を手にすると、英臣は勢いよく立ち上がった。
そんな彼に左京は弁当を手渡す。
この弁当は左京がいる日にのみ手渡される貴重なものだ。
「ほら、お弁当!」
「ありがとう左京ちゃん! 行って来ます!」
「俺も行くわ」
「あっ、誠哉ネクタイ曲がってるよ」
左京は立ち上がると甲斐甲斐しく誠哉のネクタイを結びなおす。
そんな彼女の姿を見ながら和馬はポツリと呟いた。
「なんかさぁ、誠哉とサキョウちゃんのほうが恋人同士っぽいよね〜」
「さきょうねぇ、まさにぃのこと嫌いになっちゃったの?」
「違うわよ〜、和馬余計なこと言わないの!」
和馬の一言は多分、義政の意識がなかったから許された言葉であり、万が一にも彼の耳に入っていたら例の如く和馬は半殺しの目にあっていただろう。
だがしかし、台風の目のうてなちゃんのお蔭で、今朝に限っては義政が再起不能な状態にまで陥っている。
兎にも角にも、和馬は今朝に限っては命拾いをしたのであった。
「まっ、いいか。 うてな、行くぞ!」
話もそこそこに和馬はきょとんとした表情で左京を見上げるうてなを腕の中へ抱えあげると、彼女の鞄を肩に下げて玄関へと向かった。
「せいにぃとさきょうねぇ行ってきます!」
「帰りはわたしが迎えに行ってあげるからね」
「うん」
続いて誠哉もその後を追う。
「俺も行ってくる、それと俺今日夜勤だから」
「了解、いってらっしゃい」
ぴしゃんというとのしまる音と共に、家の中には静寂が訪れた。
こうして、家の中に残ったのは・・・。
「さてと、食器片付けて私もいくか・・・。 義政、いい加減に起きれば?」
「うっ・・・」
相変わらず恋人のことを心配しない左京と、気づかれていないだけでかなり痛い思いをしている義政だけだった。
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後書き 多分わかる人にはわかることかと思いますが、私は左京のような人物を書くのが好きです。 そしてうてなのようながきんちょも書きやすいので好きです。 一応これで主要メンバーは揃いました。 |